小松の人々の交流拠点として生まれたKomatsu 九。そこで、小松で活躍中のお二人に、小松市の様々なテーマについて語り合ってもらう対談企画「KOMATSU NINE MEETING」。
第二回目となる対談は、公立小松大学教授の 中子 富貴子さんと、錦山窯四代、九谷焼作家の 吉田 幸央さん。これまで国内外幅広い地域に携わってきた中子さんと、故郷の小松で九谷焼製作に勤しんできた吉田さん。
一見すると接点のないお二人ですが、「KUTANism」という九谷焼のプロジェクトに大学が参入したのをきっかけに親しくなられたそうです。
<公立小松大学教授/中子 富貴子さん>三重県生まれ。ロシア地域を専門として旅行会社に勤め、その後に学び直しのために社会人大学院へ入学。
2018年に創立した公立小松大学の教員として、小松へ。
<九谷焼作家/吉田 幸央さん>石川県小松市生まれ。1906年創業「錦山窯」の四代目当主。色絵や金彩などの従来の九谷焼の伝統技法を活かしながら、水彩画のような淡い色合いを表現した独自の作風が特徴的。
「隣に作家がいる」小松の九谷焼産業の魅力とは
‐(進行:広報担当K)今回の対談では、小松市高堂町「錦山窯」のギャラリー「嘸旦-MUTAN-」にお邪魔しています。観音下(かながそ)の石材で建築された高雅な空間。天井から暖かい日差しが差し込み、なんとも幻想的です。
吉田さん、小松の伝統工芸品である「九谷焼」の特徴を教えてください。
吉田さん「この辺りで作られている焼物なんですが…九谷焼の産業は小松市だけでなく加賀市、能美市、金沢市と、南加賀全域に広がってるわけです。加賀市は九谷発祥の地とされていますし、能美市は作家もいて、問屋さんも文化施設もあるこれまた大きな産地。金沢市は観光業を主体に、売る場所がたくさんあります。
小松市は、最近『セラボクタニ』ができたけど、実はそれまで施設的なものも一切なかったんです。何か遺跡があったかと言われれば、そういうものも無い。」
錦山窯は、石川県小松市高堂町にある九谷焼上絵付を専業とする窯元です。
吉田さん「ただ、特徴的なこと言えば、小松には素材があるんですよね。主要な材料である『花坂陶石』は小松で採れます。産地に2軒しかない製土所は、どちらも小松にありますし、素地をつくる窯元組合も8割〜9割が小松にある。それでいて作家もいるっていう。“素材から最終工程まで全部ある”というのは小松の九谷の特徴ですかね。」
‐中子さんは、小松にきて九谷焼にどのような印象を抱きましたか?
中子さん「私が小松に来る以前の 作家を見る視線 って、“100年以上前の芸術作品やすでに亡くなった有名画家の絵” を見るような感覚なんですよ。作家は非常に遠い存在で、ずっと向こうにいて。出来上がった作品を見て 『あ、すごいな』となる世界です。
でも、こっち来たら、隣に吉田幸央さんがいるみたいな『えっ、この人ってもしかしてあの吉田さん?ウソ、生きてんの?』っていう感じですよ。(笑)」
吉田さん「生きてます。(笑)」
中子さん「こんな人って普通に会議来るの。とか、普通に会えるの。っていうのが、最初は本当に驚きだったんですよ。
作家との距離が近いのが、小松の九谷産業の特色であり良さだと感じています。」
「地に足が着いた」小松で継がれる ものづくりの”DNA”
‐伝統的な九谷焼は、九谷五彩を用いた上絵付けやその模様が特徴かと思いますが、現代では作家さんによって多様な表現をされている印象です。
何をもって「九谷焼」と呼ぶのでしょうか?花坂陶石を使えば、産地の窯元で焼けば、絵付けをされていれば…
中子さん「今年3月に卒業した学生が、九谷焼の卒業論文を書いたんですよ。
そこで〈九谷焼の定義とは何か〉という問いを掲げたんですが…『定義を求めること自体が間違っているのではないか。多様性があり変化していくことこそが九谷焼なのだ』という結論に達したんです!(笑)
面白い卒論でした。」
‐時代に寄り沿って変わり続けるところに九谷焼の良さがある、ということですね。
吉田さん「やっぱり人は定義したりとか、テキストでまとめたくなってしまうんですよね。
でも、当事者の僕自身が “九谷焼” を意識してない。『なんで定義づけしなきゃいけないの?』という感覚が、作り手としてあります。」
色絵陶磁器の上に金を定着させる装飾技法、『金襴手』
中子さん「でも、ですよ!例えば、吉田さんの作品とよく似たものを作る人が東京に現れて、“九谷”として発表したら、『違うよね』って思いません?(笑)
その時には自分は何をもって “九谷” として世に作品を出しているんだろうっていう…」
吉田さん「僕の感覚だと、もうすでに周りに作家もいて、技術もあって、『ある』のが当たり前で…それを生業にしてるっていうこと自体が当たり前で生きてきたので。僕も妻も、小松にある『埋蔵文化財センター』が大好きで、しょっちゅう行くんですけど。
“九谷以前”への興味の方が大きいかもしれない。
なんとなく、ものづくりっぽいんですよね。この周辺全体が。」
るみこさん(吉田さんご夫人)「私も埋蔵文化財センターに行って、この辺りで昔 土器や玉を作って、高域に交流して”作ることに執着してる人たちがいた”とか、そんな話を聞いて。
そうすると、自分がここにいて作っていることって、そういうことなんだなって。」
吉田さん「うん、地に足がついた感覚だよね。
やっぱり別の地域以上に、大昔から小松はものづくりのまちであったという、土地の何か…DNAみたいなものを感じることはあります。だから外から来た人も、この土地に住まうとその影響を受けてしまう。
中子さん「なるほど…腑に落ちました。
作り手が『ここにいないといけない必然性はなんだろう』って、去年ぐらいから考えていて。
地域のDNAに触れて、自分の中にもそういうDNAを感じて…『だから、私はここにいるんだ』って、急にこう、自身の存在が肯定される感じっていうんですか、それが「地に足がつく感じ」なんですかね。」
北陸新幹線が遂に開業!今、焦点を当てるべきは「九谷以前」と「交通・乗り物」
‐北陸新幹線が開業し、新たな人の流れが生まれていく小松。今後どのような魅力を推し出していくべきでしょうか?
吉田さん「やっぱり僕は “九谷以前” かな。
古九谷の美的感覚が独特で唯一無二であるばっかりに、現代人は九谷にとらわれてる気がする。九谷がなかった頃に想いを馳せると、きっと見えるものが違ってくる可能性があると思いますよ。」
中子さん「嘸旦で、やりましょうよ!“九谷以前”を語るっていう。
石の文化とか、八日市地方遺跡とか…『ものづくりの記憶』みたいなテーマで。」
吉田さん「うん是非是非。
Komatsu九 でやってもいいよね。
…というか、この『NINE MEETING』自体も公開トークショーみたいにしたら面白いかもしれませんね。
‐素敵なご提案、ありがとうございます。色々な人が交じり合う駅で、小松について語り合う場を作るのも面白そうです✨
-中子さんが注目している小松の推しポイントはありますか?
中子さん「九谷とは外れますが、『交通・乗り物』ですね。
以前、授業に来ていただいた交通ジャーナリストの方が『小松は乗り物のまちだ』とおっしゃっていたんです。」
‐『乗り物のまち』と言いますと?
中子さん「小松には、今年開業した北陸新幹線、飛行機もあるし、 重機、シェアサイクル…木場潟のカヌーとか!自動車博物館もあるし、歴史を遡れば北前船も来ていましたよね。」
吉田さん「自動運転バスの取り組みも始まったね。」
中子さん「そうそう。それに、ライドシェアもですね。
これほどの多様な乗り物が集まってるまちっていうのは無いんだと。そのコンセプトをもっと前面に出したらいいと思うんですよね。
まちなかの地域交通にはまだまだ課題もありますが…」
‐なるほど。単に移動手段というだけでなく、いろんな乗り物が小松の歴史や文化のそばにいる気がします。
-最後に、これから小松市を訪れる方に向けて、小松のお気に入りスポットを教えてください。
吉田さん「僕のおすすめは『ATAKA CAFE』(安宅町)ですね。」
中子さん「私もお気に入りです。実はATAKA CAFEに行くと、吉田さんにバッタリ会うんですよ(笑)」
吉田さん「そう!偶然よく会うんです(笑)」
中子さん「私は太平洋側の生まれで、日本海は荒いイメージがあったんです。
でも小松にきて、「そんなことない、綺麗やん!」って。
日本海って人が言うほど荒くなくて、“綺麗だな〜”ってゆっくり海を眺めながら感じられる場所が、ATAKA CAFEかなという気がします。」
-本日はありがとうございました。
<about>
窯元 錦山窯
住所:石川県小松市高堂町トー18
TEL:0761-24-2120
HP:https://kinzangama.com/